一般的に我々がお金を借りるには「担保借入れ」と「無担保借入れ」があります。

 

担保とは「債務者(お金を借りた人)が将来返済を滞らせた時に、債権者へ提供される財産の一種」です。

 
担保借入れとは担保を提供した上で借入れを行うもので、一般的なものとして「住宅ローン」があります。

 
住宅ローンでは借入金で購入した不動産を担保として提供することが原則であり、長期に渡って返済が滞ると債権者が「競売の申し立て」を行い、不動産を売却する手続きを始めてしまいます。

 
借金が払えない以上、担保を売却されても仕方がない部分もあるのですが、競売は債務者にとってはあまり有利な売却方法ではありません。

 
競売におけるデメリットは何か?そして債務者に有利な売却ができる「任意売却」とはどのようなものなのでしょうか。

 

強制的に不動産を売却するのが競売

 
長年の夢だったマイホームをやっと購入したのに、住宅ローンの返済に行き詰まってしまうことがあります。

 
特にリーマンショック以前に人気だった「段階型住宅ローン」では、多くの人が自宅を失うことになったのです。

 

住宅ローンでは自宅を購入する際に、担保として購入物件を差し出すことが原則です。

 
つまり4000万円の借入れで5000万円の自宅を購入した場合では、自宅を担保にして4000万円の抵当権を設定します。

 

しかし当初は順調だった返済も数年後には行き詰まることがあります。「会社の倒産」「経済の悪化」「病気」…理由は様々です。

 
返済が滞ると銀行などの債権者と話し合い、返済計画を見直すことになります。

 
しかしそれでもどうにもならなくなると、最終手段として競売にて担保を売却することになるのです。

 

競売とは債権者が裁判所に申し立てることで、担保として提供されていた物件を強制的に売却する制度です。

 
そして売却した代金を債権者が回収することで、それを債務に充当させることになります。

 

一般的な住宅ローンの借り入れで、競売に進んでしまう流れを見てみましょう。

  1. 住宅ローン契約
  2. 住宅ローンの返済開始
  3. 返済が滞る
  4. 債権者(銀行)との話し合い
  5. 再度返済が滞る(繰り返し)
  6. 返済不能と判断する(期限の利益の喪失)
  7. 全額繰り上げ償還(契約無効で全額返済)
  8. 保証会社による債権者への返済
  9. 債権が保証会社に移管
  10. 裁判所に競売の申し立て
  11. 競売開始決定
  12. 入札
  13. 開札(売れたこと)
  14. 引き渡し

競売の流れを簡単に紹介するとこのような流れになります。

 
住宅ローンの返済が一定期間滞ると、債権者は返済不能と判断して全額返済を求めてきます。

 
これは「期限の利益の喪失」呼ばれる状態で、簡単に説明すると契約が無効になったことを意味しています。

 

住宅ローンの契約が無効になると、債権者は当たり前に全額返済を求めてきます。

 
しかし月々の返済ができない位ですから、全額返済なんてできるはずがありません。

 

そこで債権者は裁判所に担保物件を売却するように競売の申し立てを行うのです。

 申し立てを受けた裁判所は、内容を確認した上で「競売開始」を決定し、さらに執行官による調査で売却基準価格を決めるのです。

 

その後、売却実施公告、入札、開札と競売は進み、最終的には落札者に物件が引き渡され、売却代金は債権者に渡されることになります。

 

実は競売にはデメリットが一杯隠れていた

 
競売の手続きは原則として債務者が口を挟むことはできません。裁判所が任命した執行官が最低価格を決めて入札が開始されます。

 
そして多くのケースで競売により債務がなくなることはありません。

 

例えば住宅ローンが3000万円残っていて競売にかけられたケースで、執行官の算出した売却基準価格は2000万円とします。

 
2000万円で競売を開始したところ、2200万円で入札され無事に売却ができました。

 

しかしまだ800万円が不足です。つまり競売により自宅を奪われてもまだ借金が残ることになるのです。

 
この残った800万円は更に支払期限や金利を相談して返済しなくてはいけません。

 

また一回目の競売で売却できなかった場合には、基準価格を下げて再度競売を行うことになります。

 
そうなると売却されても更に借金が残ることになるのです。

 

競売は債務者にとってメリットよりもデメリットの多い制度です。いくつかのデメリットを見てみましょう。

 

相場よりも安い価格で売却されてしまう

 
競売では市場の取引相場よりも2割~4割程度安い価格で販売されてしまいます。

 
これは短期間に売却するためと競売の特殊性を考慮した結果ですが、債務者にとっては安く財産を売られてしまうことになります。

 

そのため競売で売却できても債務の一部分にしかならずに、多くの借金が残ってしまうことも珍しくありません。

 
競売で自宅を失っても借金から逃げられないことがあるのです。

 

残債の返済方法がきつい

 
せっかく競売で借金を減らしても、借金の残債を返済しなくてはいけません。

 
債権者としては残債について、一括返済か短期での返済を求めてくることも多く、その計画を立てなくてはいけません。

 

結局支払いができずに自己破産に追い込まれるケースも多いのです。

 

急な立ち退きに対応しなくてはいけない

 
競売で落札されると所有権が落札者に移りますが、同時に不動産を明け渡さなくてはいけないことになります。

 
そのために新しい住居や引越し代を工面する必要があり、その対応に苦慮することがあります。

 

競売ではいつ売却できるかが不明確なので、突然明け渡しを求められることも珍しくありません。

 

競売の事実が近所に知られてしまう

 
競売は新聞などに掲載されしまうことで、近所に知られてしまう恐れがあります。

 
また最近ではインターネット競売サイトで広く情報が拡散されていることから、誰にも知られずに競売を行うことは難しいでしょう。

 

精神的な負担が大きい

 
競売では「自宅を奪われてしまう」との精神的な負担が生まれ、それがストレス要因となります。

 
人によってはうつ病などの精神疾患を発症させ、家庭崩壊のきっかけになることもあります。

 

競売の前に任意売却を選択しよう

 
このように競売は決して債務者にとって優しい制度ではなく、どちらかと言うと債権者に有利にできています。

 
特に担保である自宅を売却しても多額の借金が残ることで、それからの生活がより厳しくなることもあります。

 

そこで債務者がよりよい条件を得るために検討したいのが「任意売却」です。

 
任意売却とは裁判所が行う競売に頼らずに、事前に一般市場で不動産を売却する方法で、競売よりも高値で取引できるメリットがあります。

 
また任意売却では債務者が主体となった取引が進むことで、将来の生活設計も立てやすい特長があります。

 

競売よりも売却額が高くなる任意売却は債権者にとってもメリットが高く、債務者、債権者共に魅力的な方法だと言えます。

 

任意売却は債権者(金融機関)の合意が必須

 
競売にかけられる不動産は担保物件であり抵当権が登記されています。

 
このような物件を競売以外の方法で売却するには、この抵当権設定を解除してもらうしか方法はありません。

 

つまり任意売却を行う条件として、抵当権を設定している債権者にこれを解除してもらわなくてはいけないのです。

 
任意売却を行いたくても抵当権が設定されていては、誰も購入してはくれません。

 
そこで債権者と話し合い、一般市場での買い手が付いた時点で、抵当権を解除してもらう確約を事前に得るのです。

 
【任意売却の流れ】

  1. 住宅ローンの返済が不能になる
  2. 競売ではなく任意売却を選択
  3. 銀行に任意売却を打診する
  4. 銀行が了承
  5. 一般市場で不動産を売りに出す
  6. 買い手が決まる
  7. 支払いと同時に不動産登記を行う(同時に銀行が抵当権解除)
  8. 売却金は銀行が受け取る
  9. 残債務があれば分割返済する

流れとしては一般の不動産取引と同じですが、任意売却では不動産を売りに出している状態では、まだ債権者の抵当権が設定されたままの状態です。

 
あくまで売却先が決まり、実際に支払いがあった時点で抵当権を抹消し、新しい登記ができることになります。

 

つまり任意売却では債権者との話し合いによる合意が最も重要で、その合意内容に沿って売却を進めなくてはいけないのです。

 
この合意を疎かにしたことで任意売却を失敗した例を紹介しましょう。

 

【任意売却に失敗したKさん】

 
Kさんは会社をリストラされたことで住宅ローンが払えなくなってしまいました。

 
銀行からは何度も督促がありましたが、相談しても払うことはできないので放置したまま、相談をすることもなかったのです。

 

ある日、知り合いの不動産屋から「任意売却しないか?」との話があり、それで「借金が減るのなら…」と合意して話を進めてもらうことにしたのです。

 

不動産屋からは「銀行の了承をもらっといて」と言われたAさんですが、今まで銀行を無視していた手前もありなかなか行きづらかったそうです。

 
また簡単に家が売れることもないと思い、そのままにしていました。

 

数ヶ月後、突然不動産屋から買い手が決まったとの連絡をもらったKさんは、慌てて銀行に向かい任意売却の承諾を求めたそうです。

 
しかし答えは「NO」です。

 

銀行としては今まで督促しても一切無視だったKさんを信用しておらず、任意売却を認めないとの判断です。

 
さらに銀行では既に債権の保証会社への移管と、競売手続きに着手していることも告げられたのです。

 

結局、Kさんは買い手が付いたにも関わらず、競売で不動産を失うことになったそうです。

 
また競売の価格は任意売却でついた価格の2/3程度だったそうです。

 

始めから銀行と相談して任意売却を行っていたら、残債務も少なかったと後悔したKさんでした。<終>

 

このように債権者の合意を取らないで任意売却を進めても、失敗するケースがあります。

 
例え債権者にとって有利な制度であっても、誠意がない債務者に対して厳しい態度で接することがあるのです。

 

まずは誠意をもった話し合いを行うことが大切ですね。

 

任意売却のメリット&デメリットを整理してみよう

 
競売と比較してメリットの高い任意売却ですが、デメリットもあります。そこでメリットとデメリットを整理してみましょう。

 

任意売却のメリット

  • 売却額が市場価格と同じになる
  • 残債務が少なくなることで生活が安定する
  • 引っ越し時期などが相談できる
  • 仲介業者によっては引越し代をもらえる
  • 近所や友人に知られるリスクが少ない
  • 費用は売却代金で全て賄える
  • 自ら売るので精神的ストレスが少ない
  • その他

任意売却では競売と違い、不動産の引き渡しに猶予をもらえることがあります。

 
冬場の引っ越しや子供の学校の予定に合わせた引き渡しができることで、生活面での安心感を得ることもできるでしょう。

 

また債権者との話し合いで、売却代金の一部を新しい住居の敷金や引越し代として受け取ることも可能になります。

 
つまり全てが交渉によって決まると言うことです。

 

任意売却のデメリット

  • 債権者の同意が必須
  • 買い手が付かない可能性がある
  • ブラックリストに登録される
  • 一定期間後には競売になる
  • その他

せっかく任意売却を行っても買い手が見つからない場合があります。

 
特に築古物件ではいくら値段を安くしても買い手が見つからず、何ヶ月も放置されることになるのです。

 
その間も住宅ローンの利息は蓄積されるので、思いがけない負債となることもあります。

 

債権者としては任意売却を承諾しても長期は待ってくれません。一定期間様子を見て「これは売れないな!」と判断したら、競売の手続きに移行されるリスクもあります。

 

また任意売却を行うと信用情報機関に「金融事故」として登録されることになります。

 
いわゆるブラックリスト登録なのですが、これにより一定期間(5年~7年)はクレジットカードや新たなローンは作れなくなります。

 

任意売却はメリットばかりではないことを覚えておきましょう。

 

任意売却は自分でもできるのか?

 
支払いを一定期間放置すると競売にかけられてしまいますが、別の考え方で見ると債務者は何もしないで家を売ることになります。

 
つまり価格は安くなりますが、いたって楽な作業です。

 

全て債権者である銀行と裁判所がやってくれるのですから、債務者が気付かない間に売却は進んでしまいます。

 
しかし任意売却では「債権者との話し合い」「不動産屋との打ち合わせ」「売却契約」「引き渡し」など様々なことを債務者が行わなくてはいけません。

 

つまり大変なのです。しかし説明したようにメリットの多い制度なので、後々のことを考えるとやはり任意売却は魅力的です。

 

そこで利用したいのが弁護士、司法書士などの代理人です。中には任意売却に特化している事務所もあり、彼らに債権者との話し合いを任せるのです。

 
もちろん報酬を支払う必要がありますが、それは売却代金で賄うことも可能です。

 

さらに残債の任意売却後の支払い方法や、借金を圧縮する債務整理を同時に行うこともできるのです。

 

任意売却を行うタイミングは任意整理を行う好機でもありますので、自分自身で行うよりも代理人に依頼する方が後々の債務返済に有利に働くことになります。

 

競売になる前の任意売却…忘れないようにしましょう。