最近テレビを見ていると、税金や社会保険料の滞納による差押えのニュースを見かけます。

 

「差押え」何となく絶望感の漂う言葉ですが、正しくは「強制執行」と呼ばれる制度によって行われる行為です。

 
イメージ的には自分が持っている財産を全て没収されて、無一文になってしまうことを想像してしまいますが、実際にはそうではないようです。

 

差押えの実態と、そうなった時にどう対処すればよいのかを考えてみましょう。

 

まずは強制執行の流れを確認してみよう

 
借金をしているにも関わらず返済を滞らせてしまうことがあります。

 
お金を貸している債権者としては、少しでも返してもらいたいので催促を行いますが、債務者としては支払いから逃れたいと考えます。

 

もちろん十分なお金があれば返済するのですが、生活がぎりぎりではそうすることもできません。

 
また裁判で支払い命令が出たからと言って払えないものは払えないのです。

 

しかしお金を貸した債権者もこのままで済ませることはできず、債務者の財産を調べることになるのです。

 
そして一定の財産が確認されると、強制執行の申し立てを裁判所に行うことになります。

 

【強制執行の流れ】

  1. 返済が滞る
  2. 債権者からの督促(無視)
  3. 裁判所からの支払い命令(無視)
  4. 財産の調査
  5. 裁判所へ強制執行の申し立て
  6. 財産の差押え

このように強制執行は裁判所の許可が必要な制度で、借金の返済をしないからと、債権者が勝手に行うことはできません。

 
全てが法に則って行われるのです。

 

強制執行には3つの種類がある

 
強制執行には差押えを行う財産の違いによって3つの種類に分類されており、手続きにも違いがあります。

 

【不動産執行】

 

不動産執行とは債務者が保有している不動産を差押えて、それを売却することで債権者に返済する方法です。

 
債務者にとって不動産は隠すのが難しく、登記簿を見ればすぐに見つかる財産です。

 

またエリアによっては高額の値が付くこともあることから、強制執行では一番に調査される財産になります。

 
高値で売却できた場合には、全ての債務が解消されることもあります。

 

【債権執行】

 

債務者が持っている債権を差し押さえるのが債権執行です。

 
ここで言う債権とはAさんがBさんからお金をもらう権利のことで、簡単に説明すると給与や預金がこれに該当します。

 
例えばAさんは金融業者から借金をしていますが、返済が停止していると仮定します。

 
AさんはBさんの会社に勤務しており、毎月一定の給与を受け取っています。

 

ここのポイントとして給与はAさんが働くことでもらえる権利であり、Aさんが債権者になります。

 
そして給与を支払う会社の社長であるBさんが債務者と考えることです。

 

つまりAさんはBさんに対して給与を支払ってもらう権利があり、この権利を給与債権と考えているのです。

 
債権執行とはこのように債権者であるAさんの権利を、強制執行で差し押さえる行為になります。

 
Aさんの給与債権を差押えて、それを債権者の支払いに回すと言う訳です。

 

これは別の借金でも同じです。例えばAさんがCさんにお金を貸していた場合です。債権執行することでAさんの債権は債権者へ移ることになります。

 

つまりCさんは借金をAさんに返済するのではなく、Aさんが借りていた債権者へ行わなくてはいけません。

 

不動産執行と違い債権執行では売却する手間がないので、比較的行いやすい強制執行だと言えます。

 

【動産執行】

 

よくテレビで見かける強制執行は動産執行であり、これは債務者が保有する動産を差押えて売却することが目的です。

 

動産とは「貴金属」「車」「骨董品」「株式」「有価証券」「電化製品」…などの、換金性が高いものが選ばれます。

 
最近ではインターネットでも「差押え品のオークション」が開催されており、手軽に入札できるようになっています。

 

また不動産に準ずるものでも「物置」「プレハブ建物」「植木」などの簡単に取り外せるものは動産執行の対象となります。

 

いくら借金を滞納しても強制執行できないものがある

 
いくら支払いが滞っていても全ての財産を差押えてしまっては、それ以降の生活が立ち行かなくなってしまう可能性があります。

 
そこで法律は債務者や家族が生活できる最低範囲の財産を差押えることを禁止しています。

 

このような「差押え禁止財産」はいくら裁判所に申し立てを行っても許可されない財産です。

 

債権執行で差押えができないものとは

 
債権執行で差押えができない債権にはいくつかのものが該当します。

 

【給与は3/4が差押え禁止財産】

 

債権執行として標的になる給与ですが、原則として給与の3/4が差押え禁止財産になります。

 
つまり差押えができるのが1/4なので、20万円の給与では5万円のみ差押えすることができます。

 

しかし給与は人により額に違いがあります。例えば給与が50万円の人なら12.5万円が差押えになり、37.5万円が差押え禁止財産になります。

 
これでは債権者も納得しないでしょう。

 

そこで法律の規定で給与が多い場合には、給与から33万円を引いた残りを、差し押さえることを認めています。

 つまり「50万円-33万円=17万円」の差押えが認められているのです。

 

この規定は1/4の規定と比較して多いほうを適用すればよく、分岐点は44万円になります。

 
つまり給与が44万円を超えると、33万円を引く規定を適用すればよいのです。

 

【1/2が差押えられる案件も】

 

子供の養育費や婚姻に関わる生活費における差押えでは、1/4の規定は適用されず1/2まで差押えが可能です。

 
このケースについても給与が高額な場合、33万円を差し引いた額を差し押さえることもできます。

 

【年金、社会保証は原則禁止】

 

国民年金、厚生年金などの年金を差押えてしまうと、生活に支障が出てしまうことから差押え禁止財産になります。

 
また生活保護給付金や児童手当給付金も同様に差し押さえることはできません。

 

基本的に債務者のセーフティーネットとして支給されているものは、差押えできないと考えてもよいでしょう。

 

動産執行で差押えができないものとは

 
債権執行では給与の一部や公的年金などが差押え禁止財産ですが、動産執行においても差押えができないものがあります。

 

【現金は66万円までは差押えできない】

 

自宅を差押えで調査した結果、なんと現金が50万円見つかりました。50万円と言えば大金ですが、実はこれを差し押さえることはできません。

 
現金は66万円までが差押え禁止財産であり、そこまでの現金は生活に必要な最低限の金銭であると認められているのです。

 
なぜ66万円なのかと言いますと、給与の差押えを思い出して下さい。

 

給与では33万円を超えるお金は差押え可能です。

 
つまり1ヶ月に必要な生活費は33万円と決められており、動産執行における現金でも生活費の2ヶ月分(33万円×2ヶ月)は差押えできないことになるのです。

 

反対に自宅を調べた結果、1000万円が見つかった場合には、934万円を差押えることが可能になります。

 

【生活に必要な家具家電】

 

差押えのイメージでは、家中の家具や電化製品に赤紙を張られるものがありますが、実際には生活に必要なものを差押えることはできません。

 
衣服、家具、家電などは、高級品や複数持っていない限り、差押え禁止財産です。

 

難しいのはどれが高級品かを判断することで、差押えを行う執行官の感覚に頼る部分もあります。

 
例えば北海道でエアコンは必需品ではありませんが、九州ではエアコンがないと健康を害してしまうかもしれません。つまり九州でエアコンは贅沢品ではないと判断できます。

 

このような判断を行わなくてはいけないので、一律の判断とならないこともあります。

 

【1ヶ月の食料と燃料など】

 

例えば農家に差押えを行ったところ、倉庫から大量の米が見つかったとします。

 
このケースでは米は差押えられてしまいますが、一般的には1ヶ月分の食料は差押え禁止財産になります。

 

また食料を調理するための器具(フライパンなど)や燃料(ガスなど)も同様に差押えをすることができません。

 
【仕事道具】

 
差押えられてしまうと仕事ができなくなる道具は差押え禁止財産です。

 
例えば農家が農機具を差押えられたら仕事ができなくなってしまいます。また大工の道具なども同様の扱いになります。

 

特に自営業者の仕事道具は差押えできないと思った方がよいでしょう。

 

【その他の禁止財産】

 

これら以外にも「実印」「仏壇、位牌」「必要な医療器具」「日記」「帳簿」など生活で必要なものは原則として、差押えを行うことはできません。

 

また宗教の自由やプライバシーを侵害するものも実質的に不可能と考えて下さい。

 

恐れることはない!現実的な差押えには限界がある

 
強制執行で差押えられるものを紹介しましたが、「身ぐるみ剥がされる」イメージとは、ちょっと違いがあることが解ります。

 
あくまでも最低限の生活に配慮した制度であり、普通の生活には支障がでないレベルになっているのです。

 

さらに現実的な差押えでは、もっとシビアに運用されていることがあります。つまり「売れないものは差押えても意味がない」との運用方針です。

 

例えば10年前のテレビを差押えても、誰も買いませんよね。またボロボロの机なんて、タダであげると言われても困ってしまいます。

 

その意味で債権執行は現金に直結するため、差押えする側から見ても魅力的です。

 
不動産執行も時間はかかるかもしれませんが、現金化することは難しくはありません。

 

しかし動産執行では価値のないものを差押えてしまうと、返って保管費などの費用がかかり損をすることもあります。

 
従って現実的に差押えを行える財産には限界があると言うことです。

 

財産を隠されないように対策するのが仮差押え

 
強制執行を行うためには、まず裁判で借金の支払いを確定させなくてはいけません。

 
しかし、この裁判には一定の時間がかかることから、その間に債務者が差押えから逃れようと財産を隠してしまう恐れがあります。

 

そうなるとせっかく裁判で勝訴しても、差押える財産がなく強制執行ができなくなってしまうのです。

 
そこでそのような事態を避けるために行うのが、「仮差押え、仮処分」です。仮差押えとは仮に財産を差押える制度で、債務者は指定された財産を処分することができなくなります。
 

仮差押えは債務者に気付かれないように注意して行うことが重要で、気付かれてしまうと財産を隠されてしまう恐れがあります。

 
裁判所の手続きも債権者が「債務の権利」と「保全すべき理由(必要性)」を証明だけでよく、債務者の事情聴取は原則行われません。

 

つまり債務者に気付かれずに財産を一時的に拘束(保全)することができるのです。仮差押えを行うためには裁判官に納得してもらうことが重要です。

 
裁判官も自分の一存で財産が保全されてしまうので、いい加減な内容では仮差押えは認めません。

 

そこでまず債権の合理性として「契約書」「返済実績」「督促状況」「相談記録」などをまとめて説明することが大切です。

 
さらに仮差押えを行わなければ、財産を隠匿してしまう危険性についても証明する必要があるでしょう。

 

このようにハードルの高い仮差押えですが、これにより安心して裁判を行い強制執行へと向かうことができます。

 
また仮差押えを行うことで、債務者が態度を変えて支払いに応じるケースも珍しくありません。

 

借金の返済が滞った場合に差押えを回避する方法

 
「返済は滞っているけど差押えはなんとか避けたい」このようなことはできるのでしょうか?差押えを回避する方法をいくつか紹介しましょう。

 

【支払う意思を見せる】

 

支払いが滞納していてもそのまま放置するのではなく、債権者に支払う意思を見せることが重要です。

 
毎月の返済額の一部でも入金できれば、債権者も差押えまで行うことをしないでしょう。

 

しかし「ないものはない!」「取れるものなら取ってみろ!」などの態度では、裁判所も支払い意思がないとの判断から強制執行を認めてしまいます。

 

契約通りの返済ができなくても、支払いの意思は見せるようにしましょう。

 

【債権者を無視しない】

 

返済を滞納すると債権者から、督促状が送られてきます。中には返済の督促と共に、担当者への連絡依頼が入っています。

 

「どうせ払えないからいいや」とか「何か怒られそうだから嫌だ」など、督促状を無視してしまうと差押えを早めてしまうかもしれません。

 

督促状は債権者からの話し合いの招待状であり、これを無視することは支払いの意思がないことを証明してしまうことになります。

 
督促状が届いたら必ず債権者に連絡をして、面談するようにしましょう。

 

【債務整理を行う】

 

借金を放置していてもなくなることはなく、差押えを呼び込むことになります。

 
そこで債務者からアプローチすることで、差押えを回避する方法があります。

 

それが「債務整理」。債務整理は全ての借金を整理して、これからの返済計画を立てるもので、任意整理、特定調停、個人再生、自己破産などの制度があります。

 

弁護士や司法書士の代理人を立てて、債務者が有利な状況で債務の整理を行うのです。

 

特に債務が多くとても支払えない状態では、自己破産を選択し全債務を消滅させることができます。

 
自己破産でも生活に必要な財産は保有できるので、かえって差押えよりも多くの財産を残すことも可能です。

 

やってはいけない!強制執行妨害

 
債務者は強制執行の時期を知らされませんが、いくつかの出来事でそのタイミングを想像することができます。

  • 支払いに関する裁判が起こされた
  • 裁判に負けることが予想された
  • 実際に裁判に負けた
  • 督促状に「差押えします」「法的処理を行います」などが書かれている
  • 勤務先から給与の差押えについて聞いた
  • 差押えの執行官が自宅に来た
  • その他

このような出来事が起こると、債務者も自分に強制執行が迫っていることを知ることができます。

 
そして実際にそうなる前に財産を隠したり、売却して代金を親戚に預けたりしてしまうことがあるでしょう。

 

しかしこれらは「強制執行妨害」と呼ばれる犯罪行為で、懲役2年以下、罰金50万以下の罰則を受ける可能性があります。

 
実際に強制執行妨害に当たるケースが以下になります。

  • 預金を知人や親族名義の口座に移動させた
  • 財産を貸倉庫などに隠してしまう
  • 財産を売却して売却代金を隠してしまう
  • 車などの名義を親族にすり替えた
  • 会社に退職したと虚偽の報告をしてもらう
  • その他

これらは全て強制執行妨害になりますので注意が必要です。差押えが嫌だからと言って、最悪懲役刑を受けたのでは全く意味がないですからね。

 
絶対に強制執行妨害は行わないようにしましょう。

 

差押えを待つよりも債務整理が現実的な対応

 
差押えでいくらかの返済ができたとしても、それは単に一部であることが多く、借金がなくなることはありません。

 
つまり、一時凌ぎにしかならず、結局は債務整理を行うことになります。

 

そうであれば、差押えが現実味を帯びてくる前に、債務整理を行うことが効果的ではないでしょうか。

 
差押えは債務者が逃げの姿勢を見せることで招くもの、自ら債務整理を申し出て、少しでも多くの財産を守ることを考えましょう。