「借りたものは返しましょう!」誰もが幼少の頃にこのように躾けられたことがあるでしょう。
これは幼稚園児でも解る簡単な社会ルールで、おもちゃでも本でも借りたら返さなくてはいけません。
まぁ社会ルールの第一歩と言うところですね。
それではお金の貸し借りではどうでしょうか?
一般的な借金は借りたお金に一定の利子を加えて、一括で返済したり分割で返済したりするものです。
借金が少ない場合では返済も困ることはありませんが、多くなってくると毎月の返済が負担となり生活を圧迫してしまう原因になってしまいます。
そして少しずつ滞納することとなり、お金を貸した債権者との間でトラブルに発展してしまうことになります。
社会的なルールである「借りたら返す」ができなくなることで、大きなトラブルを招いてしまうのですね。
借金返済をしたくてもできない…しかしトラブルは避けたい。
このような状況に陥ったらどうすればよいのでしょうか?そのような時は債務整理を考えてみるのも方法です。
借金が借金を生む自転車操業の恐ろしさ
借金を返したいのに返せない…こんな状況にAさんは陥っていました。
彼の借金人生は社会人になって購入した、車のローンから始まりました。
彼は社会人になって始めてのボーナスを頭金にして、自動車ローンを信販会社で組んだのです。
月々の支払いは4万円弱で彼の給与でも十分払える範囲です。
またボーナス時には15万円を追加しなくてはいけませんが、これも計算では問題にはなりませんでした。
当時は経済状況もよく会社も景気が良かったので、新入社員のAさんでも問題なく返済を続けていけたのです。
しかし、入社から1年後、急に会社の経営が傾きました。いわゆるリーマンショックの到来です。
まずはボーナスの支給が停止され、続けて給与も減額されてしまいます。
昇給も見送られさらに残業もカットです。これでは生活するのもやっとで、とても自動車ローンを返す余裕がなくなりました。
ボーナス払いが半年で15万円もあるので、それを含めると月に6.5万円もの支払いが必要になります。
更に家賃が7万円なので給料の2/3がこれに消えてしまう計算です。
ここで車を売却すれば良かったのですが、Aさんは「会社の景気はすぐに戻る」と考えて、売却せずに何とかローンを支払うことに決めます。
「安易に車を売ると損をしてまう」との想いが頭をよぎったことで、彼をそのような行動に導いたのです。
しかし彼の予想に反して貯金はすぐに底をつき、毎日の生活にも苦労する始末。仕方がないのでクレジットカードのキャッシングに頼るようになりました。
1枚のクレジットカードが2枚に増えて、3枚になります。
そして返済期日になると更に増える…Aさんは借金返済の自転車操業に陥ったのです。そしてついに消費者金融から現金を借りるようになり、彼は借金に行き詰まってしまいました。
借金を整理するための4つの方法がある
Aさんは借りたお金を踏み倒すことなど考えてもいませんでした。
何とか返そうとした結果が、借金をどんどんと膨らませてしまったのです。
あまりにも多額の借金であり、毎月の利子だけで彼の給与は無くなってしまう状況です。
どうしてよいか解らなくなった彼は、ついに上司に自分の借金について相談することにします。
「もしかしたら給与を上げてくれるかも?」との思いがあったようですが、実際にはそれよりも有意義な提案を上司はしたのです。
「お前、債務整理をしないか?」上司はゆっくりとした口調で話し出します。「お前のように借金で行き詰った場合、債務を整理するのが一番だ」と言うのです。
債務整理と言われてもAさんには何をすればよいのか見当もつきません。
驚いた顔をしたAさんに上司は「とにかく俺の知り合いの弁護士に会ってみろ」と告げたのでした。
Aさんは思いがけない提案に驚きましたが、それでも上司の意見に従うことにして、指定された日に紹介された弁護士に相談に行ったのです。
上司の知人である弁護士はAさんの話しを聞いて、債務整理についての解説を始めました。
弁護士の話では借金を返したいけど返せない状況にある場合には、4つの方法で債務の整理を計ることができるようです。
- 任意整理
- 個人再生
- 特定調停
- 自己破産
弁護士はAさんにこの4つの債務整理について解説を続けました。
債権者との話し合いで解決を計る任意整理
お金の貸し借りは貸す側(債権者)と借りる側(債務者)に分かれますが、この両者が状況を把握した上で話し合いで解決を計るのが「任意整理」です。
債権者としては貸した元本、利子の両方を貰いたいのですが、このままでは債務者が破綻してしまうような状況では、元本だけでも返済してほしいと考えます。
そこで話し合いを行い、利子や元本の一部の減額を検討して貰うのです。
あくまで任意の話し合いなので法的拘束力はありません。債権者は債務者の提案を一蹴することもできます。
しかし、そうなると債務者はまた新たな借金をして、最終的には全ての支払いができなくなる結果を招いてしまうかもしれません。
債権者にとって任意整理を断ることで、更に状況が厳しくなることもあるのです。
また近年では利子の出資法と利息制限法の違いから、利子を払いすぎているケースもあります。
これを「過払い金」と呼びますが、任意整理をすることで過払い金を返却してもらい債務を減額させることも可能です。
家は手放したくない!そんな時は個人再生
例えば住宅ローンを払っている人が、他の借金の増加によって生活が苦しくなることがあります。
「借金を整理したいのだけど…家は手放したくない」このような都合のよい話…実現可能なのでしょうか?
実はこのような状況で利用できる債務整理が「個人再生(民事再生)」です。
個人再生を行うと住宅ローン以外の債務が原則1/5、最大で1/10程度に減額され、それを3年間で分割して支払わなくてはいけません。
個人再生は裁判所の認可が必要で、その通りに実行することで債務が免除される制度なのです。
しかし個人再生は誰もが利用できるものではなく、認可されるには主に2つの条件をクリアしなくてはいけません。
まずは「継続的な収入の確保」です。勤務先が安定しており、間違いなくこれからも返済可能な収入が見込まれると判断される必要があります。
次に住宅ローンを除く債務が合計5000万円以下である必要もあります。
つまり個人再生を認めても履行できないのあれば、意味がないので裁判所として認めた人だけが利用できると言う訳です。
債務を減額してもマイホームは残るなんて、凄すぎると思いませんか?
裁判所が仲介をしてくれる特定調停
任意整理は弁護士や司法書士が仲介者となって、債権者と債務について話し合うものですが、「特定調停」は裁判所が仲介してくれる制度です。
任意整理では弁護士や司法書士に依頼することから、それなりの費用がかかりますが、特定調停では裁判所に支払う手数料(500円程度)で調停を行うことができます。
特定調停は安くて魅力的な債務整理なのですが、注意ポイントもあります。
まずは特定調停を行うための準備は全て自分で行わなくてはいけません。
弁護士に依頼することも可能ですが、それでは特定調停の意味はありませんし、報酬を支払う必要も出てきます。
実際の調停でも自分で業者と話し合いを行わなくてはならず、それなりの法的知識も必要になってくるでしょう。
さらに債権者が複数ある場合には一社ずつ調停が必要になり、手間も時間もかかってしまいます。
また個人で行うことで業者が強気になって、話がまとまらないことも珍しいことではありません。
その場合では改めて弁護士や司法書士に依頼することになるので、二度手間になってしまうことになるでしょう。さらに過払い金がある場合の返却にも難を示すこともあるようです。
借金の借入先が1社のみであれば頑張れば何とかできますが、複数にもなると手に負えなくなってしまいますよね。
借り入れ業者が少ない時には活用できる制度だと理解した方が良さそうです。
最後の切り札が自己破産だ
「収入や資産に対して債務が大きすぎる」「現状において生活が破綻している」…このような場合には、どんなに債務を整理しても借金の返済を続けることは不可能です。
この厳しい状況下においては、債務を全て消滅させる「自己破産」の制度を利用するしか方法はありません。
自己破産は裁判所に破産申請を行い、破産が決定した後に免責決定を受ける制度です。
免責決定が出されるとそれまでの債務は全て消滅して、新しい人生をスタートすることができるようになります。
そう、あんなにあった借金がゼロになるのです。
自己破産は借金が200万円でも5000万円でも、全てを消滅させることができますが、税金などの滞納は免除になりませんので注意が必要です。
税務署からの税金の督促に「俺は破産したから…」と言っても、これだけは通じないのです。
また裁判所の調査で不正などが発覚した場合には、免責が認められないこともありますので、不正だけは絶対に止めるようにしましょうね。
自分の状態にあった債務整理を行うことが大切
Aさんは弁護士から4つの債務整理を教えて貰い、自分の状態には何が一番合うのかを決めなくてはいけません。
Aさんの債務はクレジット会社も含めて10社、債務の総額はなんと800万円にもなっていたのです。
弁護士はこの状況から判断して自己破産がAさんにとって適当だと判断しました。
そしてAさんもその判断に従い、それから3か月後に自己破産の申請を行ったのです。
債務整理で重要なのは債務者の状況に合った方法を選ぶことです。
念願のマイホームを手放したくない人は、個人再生や特定調停をまず考えなくてはいけません。
住宅もなく債務が大きい場合には、自己破産が最も効率的な債務整理になります。
まずは客観的に債務内容を確認することが大切なのです。
やり直したいなら債務整理は避けられない道
債務整理は借金を減額してくれて、場合によっては全てを消滅させてくれる驚きの制度です。「借りたものは返しましょう」の精神が、ここにはなくなっているのですから。
しかしなぜこのような制度があるのかと言えば、それは国民が等しく平等な生活を送れるように「再スタート」を国が応援してるからです。
借金で生活費がなくなると、子供の食費や学費に影響が出てしまうことでしょう。
それでは平等な生活を送ることができなくなるので、親の債務を整理してくれるのですね。
借金により苦しくなった生活をやり直したいなら、債務整理は避けることのできない道です。胸をはって債務を整理して、新しい人生をスタートさせましょう。
まずは自治体の無料相談の利用から始めよう
「債務整理はしたいのですが、弁護士や司法書士に支払うお金がないのです」これは追い詰められた債務者が、よく口にする言葉です。
専門家に相談したいにも関わらず、金銭的な問題からそれができないのです。
たしかに返済で追い詰められている人が、高い弁護士費用など支払える訳がありません。
そこでオススメしたいのが自治体の「無料相談」です。
各自治体(市町区村)では定期的に、住民サービスの一環として弁護士や司法書士の無料相談会を実施しています。
あらかじめ役場に予約することで、30分~1時間程度の相談が無料になります。
債務整理の第一歩はこの無料相談会をぜひ利用してみましょう。
また弁護士会が行っている「法テラス」には、無料相談や費用の立て替え制度もありますし、司法書士会も無料相談日を定めて、相談を受け付けています。
無料だからと遠慮しないで、まずは相談することから始めてみましょう。
借金で借金を返済する前に債務整理を考えよう
先に紹介したAさんのケースでは、最終的に返済を行うために借金を増やしていました。
これは自転車操業の状態でAさんは1円も使うことなく、全てを返済に回しており、借金だけがどんどん膨らんでいたのです。
Aさんは判断を先送りすることで、加速度的に借金が増えてしまい、最終的には自己破産せざるを得ない状況に陥ってしまいました。
本来債務整理は借金で借金を返す状況になる前に開始しなくてはいけません。
そうであれば被害も少なく、自己破産までする必要はなかったかもしれません。また迷惑をかける会社や人も少なかったでしょう。
日本では借金が原因による自殺が多く見られます。しかし、その中には明らかに命を絶たなくてもよかった人が大勢含まれているのも事実です。
債務整理の制度を皆が知ることで、このような悲劇を食い止められることができるでしょう。
自転車操業を始める前に、まず債務整理を考えてみませんか?