「あ~もう無理だぁ」「俺は破産だぁ~」数年前に見た映画で、ギャンブル好きの主人公が賭け事で大負けした時に叫んだ台詞です。
何となく人生がもう終わってしまうような印象を与えていると思いませんか?
特に「破産」と言う言葉には、負のイメージが強く、とてもじゃないけど笑いながら言えるものではありません。
しかし破産は一般的に思われているような、悪いイメージとは少々違いがあります。
債務整理の中でも最終手段と呼ばれる「自己破産」について解説しましょう。
昔の破産のイメージは人間失格
「破産者」と呼ばれる言葉がありますが、これはそのまま「破産した人」のこと差した言葉です。
しかし破産者のイメージは「借金を踏み倒した悪人」「経済的犯罪者」「貧乏人」そして「人間失格者」などと思われてきた側面があります。
自宅や財産の全てを奪われ、家族離散、果にはタコ部屋送り…などが、その末路のように語られてきた破産は、一般人にとっては「勘弁して下さい」と思わざるを得なかったのです。
確かに過去には破産者は社会から爪弾きにされた時代もあったそうです。
破産者と知られると世間から白い目で見られ、会社もクビになり、肩身の狭い思いをしたでしょう。
このようなイメージが現代においても残っているのはとても驚きなのですが、それでも多くの人が破産に対する嫌悪感を持っているのは間違いない事実です。しかし現在の「自己破産」は、過去のように人間失格の烙印を押させる制度ではありません。
自己破産のメリットを考えてみよう
借金の返済に行き詰まると、多くの人が「債務整理」をするか「逃げる(?)」かを選択することになります。
もちろん返済を止めてしまっても、借金はそのまま残り最悪利子だけがどんどんと蓄積されます。
逃げることを選択する人は少ないと思いますが、これでもやはり利子は増えてしまうでしょう。
そこで債務整理を考えるようになります。中でも借金が全て棒引きになる自己破産は、債務者にとって魅力的な制度と言えます。
自己破産とは裁判所に自己破産の申請を行い、免責決定を得ることで一部の税金を除き、全ての借金を消滅させることのできる制度です。
つまり免責の決定により債務が無くなり、無借金の人間になれるのです。
借金は200万円でも1000万円でも5000万円でも大丈夫。全ての借金が無くなるので、大変お得な制度だと言えますね。
自己破産の手続きも弁護士や司法書士に依頼すると、個人で3ヶ月、資産が残っている人でも約半年もあれば手続きが完了します。
たしかに自分が借りたお金を全てチャラにするのは申し訳ない感情も生まれますが、それでも短期間に借金がなくなるこの制度は、追いつめられた債務者にとって「神の救い」となっているのは間違いありません。
自己破産のメリットは「どんなに債務が残っていても全てが消滅される」ことに尽きるのです。
気をつけたい自己破産にはデメリットもある
自己破産の素晴らしいメリットは、反対に様々なデメリットを生む原因にもなります。自己破産を行うことで被るデメリットを紹介しましょう。
- 保有現金(貯金も含む)は99万円まで
- 時価で20万円以上の資産の売却
- 職業の資格制限
- 官報へ情報が記載される
- ブラックリストへの登録
- ローン、クレジットカードが作れなくなる
- 本籍地にある破産者名簿に記載される
- その他
借金とは貸す側と借りる側がいて成立する経済行為ですが、借金を棒引きにすると債権者は貸したお金が戻ってこなくなります。
そうなると債権者は損をして経済的な打撃を受けることになるのです。
そこで裁判所は破産者に対しても一定の責任を負わせ、残っている財産の中から条件に合うものを売却して債権者に少しでも返済するように命じることがあります。
この話が大きくなって「破産者は身ぐるみ剥がされる」的な都市伝説を生んでいるのですが、実際には細かい規定があり財産を売却するケースは少ないのが現実です。
保有財産の限度については心配することはない
自己破産をすると自分の持っている財産を整理して、余分なものについては返済に当てる必要があります。
特に現金や預金は合計で99万円を超える部分は、債権者への返済にあてなくてはいけません。
しかし考えてみると借金の返済ができなくなることで、自己破産をするのですから、預金を沢山持っている人はまずいないはずです。その意味でこのデメリットは気にすることはないものになります。
また債務者が夫で保証人が妻のケースでは、両人とも同時に自己破産をしなくてはいけませんが、2人それぞれに99万円なので合計して200万円程度の保有は認められることになります。
自己破産で無一文になるようなことは、裁判所は認めないので安心して下さい。
現金以外にも資産の売却が必要になることがありますが、これは「時価で20万円相当の品」であり、例えば不動産、自家用車などが該当します。
しかし、借金に苦しんでいる人の不動産には、既に多くの担保が設定されていることが多く、破産と同時に競売で売却されてしまいます。
車も同様でローンが残って入れば、ローン会社が回収してしまうでしょう。
そして残った物に時価20万円の品があれば売却ですが、そのような物があるとは到底思えません。
品物は購入して一回でも使用すると、値打ちが半値になると言われており、時価で20万円もするものは美術品以外には考えられないのです。
これらのことから実際に自己破産を申し立てても、家具や電化製品を処分されることはほとんどないと考えて下さい。また自己破産の申請を決めた時点で、売却できる資産を売却して現金で制限まで持つ方法もよいでしょう。
職業の資格制限があるが…あまり関係ない
「破産者になると仕事を辞めなくてはいけない…」このような都市伝説を未だに信じている人が少なくありません。
しかし自己破産を行ってもその事実が会社に知られることはまずなく、また知られたとしても会社を辞めさせられる理由にはなりません。
しかし自己破産のデメリットには「職業の資格制限」があります。
これは一定の資格職業において破産者は業務ができなくなる規定ですが、まず間違えないで貰いたいのはこの停止期間は自己破産の申し立てから免責決定が下るまでの間になります。
つまり世間一般に言われているような「破産したら一生この職業に就けない」ではなく、「自己破産の申し立てから免責決定の3ヶ月~半年程度の間だけ就けない」と言うのが正解です。
またこの規定で制限されている資格は以下の通りです。
- 弁護士、税理士、宅地建物取引士などの士業
- 生命保険募集人
- 警備員
- 公証人
- 質屋
- その他
医師や看護師、介護師などはこれらの規定には含まれておらず、あくまでも一部の資格や職業に限定されています。
また資格を剥奪されることはなく、期間も数ヶ月なので大きな問題にはならないと思います。
自己破産を行っても仕事を失ってしまうことは考えなくてもよいのです。
ちょっと気を付けたいのがブラックリスト
「ブラックリスト…」何となく意味深で闇を感じさせる言葉ですが、自己破産を行うと破産者の情報がブラックリストに記載されてしまいます。
ブラックリストと言っても怪しい文章に秘密裏に書かれてしまうのではなく、民間の「信用情報機関」に個人の信用情報が記録されてしまうのです。
銀行やクレジット各社は一定の信用情報機関を共通して利用することで、顧客の信用情報も共有します。
つまりA銀行で事故を起こした顧客を登録することで、B銀行もその情報を保有する仕組みです。
つまり自己破産申請を行うと一部の銀行に弁護士から通知が届きます。
受け取った銀行はその内容を信用情報機関に連絡して、情報を記録して貰うのです。ここで記録されたものがブラックリストの正体です。
また官報と呼ばれる政府が発行する新聞のようなものに、破産者情報が記載されることでブラックリストに記録されることもあります。
破産者は間違いなくブラックリストに登録されますので、それ以降の金融取引には大きな支障が出ることを覚悟しなくてはいけません。
ブラックリストによって影響が出るものを紹介します。
- 住宅、自動車などのローンが組めなくなる
- クレジットカードが作れなくなる
まず金融ローンの審査が通らなくなることは間違いなく、住宅ローン、自動車ローン、学業ローンなどを申し込んでも、断られることになります。
これは銀行であっても信販会社であっても同様で、信用情報機関を使用している限り全てで断られることになるでしょう。
またクレジットカードも同様で、自己破産時に迷惑をかけていないクレジット会社においても作ることはできなくなります。
金融会社にとって破産者は損害を与えた「加害者」として判断しているので、これは仕方がないことかもしれません。
それでは一度ブラックリストに記載されたら、一生このまま金融失格者としての人生を送らなくてはならないのでしょうか?答えは「NO」。
各信用情報会社は一定期間を経過することで、自動的にブラックリストから消去される仕組を持っています。
期間は会社によって5年から10年と言われており、長くても10年でブラックリストから消去されます。
そうなるとローンも借りられるようになるし、クレジットカードも作れるなど元の状態に戻ることができるのです。
ただし自己破産時に迷惑をかけた金融会社では、独自のブラックリストを持っているところもあり、そのような会社では10年を経過しても取引できないこともありますので注意して下さい。
破産者名簿は極めつけの都市伝説
自己破産をして破産者になると今でも「住民票に記載される」と信じている人がいます。
それで一生破産者として生きていくしかないと思い込んでしまうのですが、現在ではこのようなことはありません。
それでも「破産者名簿に記載されるでしょう?」と言われるとその通りなのですが、これは本籍地にある役場においての話で現住所を管理する市町村は関係ありません。
破産者名簿は裁判所が自己破産手続きの開始を行ってから、免責決定が出るまでの間のみ記載される記録です。
ですから数ヶ月しかその記録は残りません。
また破産者名簿はあくまで非公開なので、一般の人が見ることはまずありえない名簿です。
破産者が本籍地で「身分証明者」を発行して貰うことで、破産状態が記載されますが、それ以外では外に出ることは考えにくいのです。
また近年、短期で終了する自己破産手続きでは、破産者名簿の記録を行わないことも多くなっており、特に手続きに問題があるケースのみ記載される運用が広まっています。
破産者になると住民表に書かれてしまうなんて、そんなことは有り得ないことだったのですね。
メリットに対してデメリットは大したことはない
自己破産のデメリットにはここで紹介した以外にも、「海外へ出国できない」「郵便物を管財人に見られる」などもありますが、これらは全て自己破産の申し立てから免責決定までの数ヶ月のことです。
お金がないのに破産申請中にのんびりと海外旅行に行く人などいないですよね。
また弁護士や破産管財人に見られてまずい郵便物も通常はありません。さらにこれらも免責決定が出るまでなのですから、全く苦にはならないはずです。
色々とデメリットはあるようですが、致命的なデメリットは見つからないように思えます。
そう自己破産のデメリットは、借金で苦しんでいる人にとって全く問題にならないくらいに大したことがなかったのです。
納税者の権利である自己破産…えっ納税者って
全ての債務を消滅させてくれる自己破産ですが、実は税金だけは消滅させることができません。
例えば所得税や住民税などの税金を滞納している状態で、免責決定してもそれらはなくなることはありません。
さらに悪質な税金滞納者では、裁判所が自己破産や免責を認めないこともあります。自己破産の申請を考える場合には、まず税金の滞納状況を調べて適切に処理することも大切なのです。
あくまで自己破産制度は納税者が債務を整理させる権利であり最終手段です。国民の義務をしっかり考えてから、申請するようにしたいですね。
どうでしたか?自己破産におけるデメリットを紹介しましたが、印象が変わった人も少なくないのではないでしょうか?
自己破産は人間失格の烙印ではなく、あくまで人生のやり直しを法律で後押ししてくれる制度です。
やらないに越したことはないのですが、必要な場合には恐れることなく前に進みたいですね。
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