任意整理と特定調停の違いを見極める

 

債務整理と言えば「任意整理」「個人再生」「自己破産」が知られており、特定調停はあまり有名ではないかもしれません。
 
 
任意整理は弁護士や司法書士が依頼を受けて、債務を整理する方法で、近年では「過払い金の返還」が主な目的になっています。
 
 

任意整理ではまず弁護士等の代理人が全ての債務を調査して、過去に遡って支払った利子を精査します。
 

精査内容を債権者と話し合うことで払いすぎた利子が確認された場合、それが過払い金となり現在残っている債務から差し引かれたり返還されたりするのです。
 
これらの作業は債務者ではなく、専門の弁護士や司法書の手で進められることになります。
 
 
つまり債務者は安心して全てを任せることができるのです。
 
 
また債務者が代理人(弁護士、司法書士)を立てた時点で、支払いに関する督促もなくなります。
 
 

これに対して特定調停の特長は代理人を立てずに自分で全てを行うところです。
 
 
代理人を立てるともちろん費用がかかり、お金に困っている債務者にとっては大きな負担です。借金で首が回らいのに高額な弁護士費用が必要と言うのも…疑問ですよね。

 
 
特定調停は債務者自身が簡易裁判所の力を借りて債権者と話し合う制度です。つまり費用を抑えて債権者と調停協議を行うことができるのです。
 

特定調停を行うにはいくつかの条件があった

 
特定調停を申し立てることは基本的に誰にでもできるのですが、一定の条件が満たされないとなかなか認可されないようです。
 
 

【特定調停を行う条件】

  • 調停時に安定した収入が確保されていること(申告時には無職でもOK)
  • 調停後の債務を約3年で完済できること

これらの条件は当たり前と言えばそうなのですが、収入が確保されていなければいくら調停を行っても返済には疑問が残りますよね。
 
 
まずは仕事と収入が確保されていることが重要な条件になります。
 
 
また債務整理の制度では再生の意味合いから、原則3年で債務を完済させることがポイントになっており、特定調停においても3年(長くて5年)で完済させることが条件になります。
 
 

「特定調停で債務を減らしたいのですが…」と言っても「貴方は仕事もないのにどうやって返済するつもりなの?」と断られてしまうことになるのですね。
 

特定調停は1社ごとに選択して行わなくてはならない

 
特定調停の特長として理解したいのが、実際の調停における作業です。
 
 
任意整理、個人再生、自己破産は、基本的に全ての債務についての債務整理を行う制度です。
 
しかし特定調停は債権者(金融業者)1社ごとに調停を行わなくてはいけません。
 
 

つまり10社からお金を借りている場合、その全てと個別に協議しなくていけないのです。
 
 
また、10社の中で特に金利の高い債権者だけを選んで、調停にかけることも可能です。
 
 

ですから例えば自宅を購入して住宅ローンがあった場合、住宅ローンはそのまま払い続けて、他の高金利の債権者だけに特定調停を行うことができます。
 
 
そうなるとマイホームは安泰と言うことになりますよね。
 

特定調停を行うには十分な準備が必要だ

 
 
調停を行いたい債権者が決まったら、相手の住所がある簡易裁判所に特定調停の申し立てを行います。
 
 
この時に「負債の状況調査票」や「収入&支出票」などを一緒に提出しなくてはいけません。
 

そして裁判所からの通知に従い、裁判所に出向くことで特定調停を開始することになります。
 
 
特定調停では主に調停委員(専任された弁護士、司法書士など)が、債務内容を確認して法律に従って新たな返済計画を立案します。
 

ここで重要なのは特定調停を行っても債権者には得はないことで、決して協力的な態度で調停に挑むことはありません。
 
 
従って有利な調停を行うためには、債務者自身が十分な資料を準備して、調停委員に説明することが大切なのです。
 

調停の結果、債権者と債務者で合意すると「調停調書」が作られ、それは裁判の判決と同様の効力を持ちます。
 
 
自分の準備が不足していた場合では、調停が不調に終わったり、不利な内容で調停調書が作られたりすることも考えなくてはいけません。
 

特定調停のデメリットにも注意しなくてはいけない

 
特定調停は任意整理と同じく利息の線引きを行い、債務を減額することができる制度で、掛かる費用も少なく済みます。
 
 
一見して任意整理などよりも良い制度に思えますが、実際には多くのデメリットが隠されています。
 

  • 費用は安いが労力は高い
  • 断られる可能性がある
  • 調停委員の理解にばらつきがある
  • ブラックリストに登録される
  • 調停内容を守れなかったら即差し押さえも
  • 過払い金請求はできない
  • その他

まず特定調停にかかる費用は簡易裁判所に払う申込み費用500円と、連絡通信費用が債権者ごとに必要になります。
 
 
任意整理では弁護士や司法書士に7万円~数十万円もの手数料を払う必要があることから、これは激安プライスと言う他ありません。
 

しかしその分、資料作成や実際に調停に行く時間などに、大きな労力が必要になります。
 
 
そのために仕事に支障が出て、収入にも影響が出てしまうかもしれません。「安い分、働け」と言うことですね。
 

次に特定調停は不調に終わることが多いことも念頭に入れて下さい。債権者は相手が素人であることは解っているので、せっかくの調停案に合意しないことがあるのです。
 
 

調停委員の中には金融に不慣れな人も多く、その点で当てにならないことも珍しくありません。
 
 
金融に詳しい調停委員であれば債務者の強い味方ですが、詳しくない人に当たると必ずしも債務者に有利な内容にならないこともあります。 
 
これだけは運としかい言いようがありませんね。
 

そしてブラックリストへの登録もデメリットになります。特定調停の申し立ては債権者から見ると「金融事故」なので、情報信用機関への登録が必要になります。
 
 

債権者が5社ありその中の1社のみと特定調停を行っても、登録はされますので覚悟をしておく必要があります。
 
 
ブラックリストに登録されると一定期間、新たな借金やクレジットカードの作成ができなくなることで、日常生活に支障が出ることも考えられます。
 

ただし一生この状態が続くのはあまりにも可哀想なので、登録は信用情報機関によりだいたい5年程度となっています。
 
 

決まった調停は守らないと恐ろしい現実が

 
特定調停が上手く進み調停調書も作られました。そうなるとその内容通りに返済を行わなくてはいけません。
 
 
しかしここで重要なのは調停調書で定められた内容は、判決と同等の「債務名義」となってしまい、履行しないとペナルティがあることです。
 
 

つまり調停調書は簡易裁判所が仲介した契約書であり、これに従わないともう裁判所は守ってくれません。
 
 
したがって今までとは違い返済が1~2回遅れた程度で、給与や財産の差し押さえができるようになります。
 

債権者としても金利を減額した上に返済が滞るようでは、堪忍袋の緒が切れた状態になり、裁判所もそれを「やむをえない」と認めてしまうのです。
 
 

 
決まった調停は守らないと恐ろしい結末を迎えることを覚悟して下さいね。
 

過払い金の返還は新たな訴訟を起こす必要がある

 
任意整理では弁護士や司法書士が全ての作業を行うので、過払い金が債務を超過した際には「過払い金返還請求」を行ってくれます。
 
 

しかし特定調停にはこの過払い金返還請求は含まれておらず、過払い金がある場合には改めて「過払い金返還請求訴訟」を起こす必要があります。
 
 
そうなるとさらに作業が増え、裁判所に出向く時間も必要になります。
 

また過払い金返還請求訴訟だけを弁護士等に依頼することも可能ですが、やはり費用面では高く付いてしまうでしょう。
 
 
全てが一回で済むと思ったら大間違い、注意したいポイントですね。
 

最近では特定調停を嫌がる債権者が増えている

 
特定調停は安い費用で債務整理ができる制度なのですが、あくまで債権者と債務者の合意により成立します。
 
 
債権者には特定調停を断る権利もあり、最近では不調に終わる特定調停が増加しています。
 

せっかく申し立てを行った特定調停が不調になると、債務者はまた借金に悩まされる日々に戻りかねません。
 
 
そして仕方がなく弁護士や司法書士に任意整理を依頼することになるのです。
 

特定調停は裁判所が債務の話し合いの場を作ってくれますが、あくまでそこからは債権者と債務者の合意次第なのです。
 
 
調停委員と言う強い味方もいますが、完全に任せると思いがけない返済計画を飲まされることにもなりかねません。
 
 

特定調停を行うためには、しっかりとした準備と心構えが大切だと理解して下さいね。